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仙台高等裁判所 昭和63年(く)39号 決定

少年 B・O(昭48.4.29生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、付添人○○作成の抗告申立書並びに抗告の理由補充書各記載のとおりであるから、これを引用する。

抗告趣意第1事実誤認の主張について

一  所論は、まず原決定5の非行事実につき、少年は、同判示日時ころ、同判示場所付近の空地(以下、「本件空地」という。)に置いてあつたバイクを取りに行き、たまたまそこに居合わせただけでバイクの運転はしていないのに、原裁判所が、信用性のない証人A(抗告の理由補充書に「A’」とあるが誤記と認める。)の原審審判における供述等により少年の無免許バイク運転の非行事実を認定したのは事実の誤認である、と主張する。

そこで検討するに、証人A(原決定には証人「A”」と記載されているが、誤記と認める。)の原審審判における供述は、○○警察署外勤課○○警察官派出所勤務の警察官である同人が、本件当夜である昭和62年10月4日の深夜、相勤者のB巡査部長、C巡査とともにミニパトロールカーで市内を警ら中、翌五日午前一時過ぎころ、○○方面から○○方面に進行するバイクを発見し、これを検問しようと対向して進行したところ、同バイクが途中で○○交差点を右折し、○○団地方面に向かつて○川東側土手道路を北進するのを見届け、○川西側土手道路を○○橋方向に徒歩で追尾し、そのバイクが○○団地方面から戻つて来るのを本件空地において待機し、やがて同団地方向から戻つて来て空地に乗り入れたバイクの運転者である少年を取り調べたという内容であり、具体的かつ詳細な供述であつて少年に対する検問の端緒、少年と一緒にいたDを追跡するに至つた状況、並びに走つているバイクの電子ホ・ーンやエンジン音等にも注意しつつ予測をつけて本件空地で待ち受けていた状況等について述べるところもごく自然であり、他の証拠に現れている客観的事実にも符合し、格別不自然、不合理に亘る点もなく十分信用できる。所論は、同証人の供述中の本件空地の広さに関する部分が、E撮影の写真、証人D(第二回)の原審審判における供述に相違することをもつて、同証人の供述全体の信用性を論難するが、右の一事から直ちに同証人の供述全ての信用性を否定することは、あまりにも速断に失するものと言わなければならない。右措信すべき証人Aの供述に、同Dの一部供述、A作成の捜査報告書(昭和62年10月5日付)、C作成の捜査報告書を総合すれば、A、C、Bの警察官3名は、当夜ミニパトロールカーで警ら中、○○橋西側の○○警察官派出所前付近で○○方面から○○橋方向に向けて西進して来るへルメツトなし黒ジヤンパー姿の者(Dも少年の着衣が黒つぽい上衣であつた旨述べている。)が運転するバイクを発見し、その後方に無燈火の自転車乗りが追従する形で進行してきたところから、これを検問しようとし、○○橋方面に向けて対向進行したところ、バイクも自転車の男も途中から○○交差点を右折して○川東側土手道路を○○団地方面に向い、バイクは電子ホーンを吹鳴して北進したので、A巡査は徒歩で○川西側土手道路を○○橋方向に向い、B巡査部長らはミニパトロールカーで自転車乗りを追尾したところ、自転車乗りは○○交差点から50メートル北進した三差路を右折したのでこれを更に追尾し、A巡査は、バイク乗りは電子ホーンを吹鳴して○○団地方面に向つた様子ながら、その音が再び近づく気配からして○○橋付近に引き返して来るものと予想し、その近くの本件空地で待機していたこと、電子ホーン音のバイクの運転者は○○団地方面から本件空地東側私道を南進して本件空地内に乗り入れ、A巡査が待機する場所から約10メートル離れた位置に停車し、エンジンを停めライトを消したので、A巡査は直ちに駆け寄つて運転者を確認したところ、以前から面識のある少年であり、バイクには電子ホーンが取り付けてあり、登録番号は青森市×××××号であつて、少年の年令からして無免許であると判断し、○○警察官派出所への同行を求めたこと、一方、B巡査部長らは○○高校裏道路付近で、Dに追いついたところ、同人は自転車を放置して逃走しようとしたので、派出所に同行のうえ職務質問を実施したのみで午前二時ころ帰宅させたこと、そうする間に少年の父Eが、少年が補導されたことを聞きつけて右派出所に来たので、A巡査らは同人立会いのもとに少年の取調べを開始したところ、少年は、バイク運転は本件空地内に止どまる旨弁解し無免許運転の事実を否認したので、取調べを中断し、後日続行することにして帰宅させたことなどの各事実が認められ、以上の事実経過並びに少年の年令からすれば、少年が原決定5の日時ころ同判示場所において無免許で第一種原動機付自転車(青森市×××××)を運転した(原決定が非行事実5において「上記車両」と判示したことは、普通乗用自動車を指すことになるので、誤りというほかはないが、重大な誤認というには当たらない。)ことは明らかであり、右認定に反する「自転車に2人乗りして本件空地に行き少年を同所で降ろした」旨の証人Dの供述並びにこれと同旨のもとに同判示事実を否定する少年の供述は、前示措信すべき各証拠によつて認められる検問前後の客観的状況とも相容れないふしがあつて措信できない。

二  次に所論は、原決定の6の(1)、(2)の各非行事実につき、少年は、F、Gら○○中学校教諭数名から全身に殴る蹴るの暴行を受けたのであつて、少年が右両名に対し原決定判示のような暴行を加え傷害を負わせたことはないのに、学校側が非教育的な体罰の事実を社会に認蔽するため、少年が同人らともみ合い、あるいは同人らを振り切ろうとした際に生じた教師側の軽微な負傷を殊更大げさに取り上げ、「傷害事件」として作り上げたものであつて、これを看過し少年の傷害非行事実を認定した原決定には明らかな事実の誤認がある、というのである。

そこで、記録を精査して検討するに、H、I、J、K、L、M、N子、O子、P(以上、いずれも少年が所属する○○中学校×年×組の生徒)、Q(同校校長)、G(同校教頭)、F、R、S(以上いずれも同校教諭)の司法警察員に対する各供述調書(所論は右各供述調書が反対尋問の機会に晒されていないことをもつて信用性に疑いがある旨論難するが、右各供述調書は、相互に大筋において符合し、名調書の内容自体自然で、本件に至つた経緯事情とも矛盾を来すことがないなど、十分信用性に富むものと認められ、反対尋問の機会が与えられていないからといつてこれらの供述調書の信用性が直ちに否定されるとすることは、少年保護事件処理の原理をすべて刑事事件処理のそれと同視し、少年法の目的、特性、手続の特質を没却するものであつて当を得たものではない。もとより少年保護事件においても伝聞の不確実性、危険性は十分顧慮されなければならないが、少年保護事件においては、少年法所定の目的に鑑み、各証拠の内容、形式や、他の証拠に現れる客観的な情況との符合など、合理性が担保される限り、少年事件担当裁判官の健全な判断により、事実認定の資料となし得るものと解すべきである。)並びに証人Fの原審審判における供述のほか、関係各証拠を総合すれば、原決定6判示の日時ころ、少年が所属する×年×組の教室において、担任のF教諭が、配付を受けていたプリントを捨てたまま片付けなかつた少年を注意したところ、少年がすなおに従わず暴言を吐いて反発したので、同教諭は相談室に同伴した上で話し合うことにし、少年にその旨指示したうえ相前後して教室を出たこと、折しもいわゆる学活が終り、1校時目との間の休けい時間に当たり、生徒らは教室の内外に出入りする状況で、少年はF教諭と前後して廊下に出たものの、教室を出るいきさつが前記のような状況であつたことや、少年が×年×組前廊下で同教諭に反抗するような態度を示したりしたこともあつて、級友中の1部には、少年とF教諭の行動に関心をひかれ、廊下に出て注視する者もいたところ、少年は×年職員室横を通つて同所から昇降口に至る西側中央廊下の中央付近にさしかかるや、やにわに同教諭に殴り掛つて同教諭の顔面を手拳で3回殴打し、少年の肩と肘を押えて更に相談室への同行をうながす同教諭の手を振り切ろうとして暴れ、大声でわめく状態となつたこと、この状況を目撃したT子は、×年×組教室へ戻つて「『○○』(F教諭のニツクネーム)を(少年が)ぶつたたいた(殴つたの意)」と興奮気味に話し、その状況を級友のMらを相手に身振り手振りを交えて再現して見せ、級友らは少年の行動に今更ながら驚き学級内は騒然とした状況となつたこと、一方、ただならぬ騒ぎに気付いて廊下に顔を出したQ校長は、少年とF教諭に相談室より手前にある校長室に入るよう指示し、少年にはソフアに座るように言つて落ち着かせようとし、G教頭、R、S両教諭らも校長室に入つて事態を見守り少年の沈静化をうながしたが、少年はここに至つて再度F教諭に殴りかかり、5回位同人の顔面を殴打し、これを制止したG教頭にもその顔面を殴打したり、足を蹴りつけたりの暴行に及んだ結果、G教頭の眼鏡が床に落ち、鼻血が流れ、右F、G両教諭が原決定6判示の各傷害を負うに至つたこと、そこで学校側は、少年の父に来校を促がし、同席の上で事情を聴取し、少年の反省を求めてその教育的措置について父と話し合おうとしたが、少年は暴行の事実を全面的に否定し、かえつて、父に対し自分が被害者であるとして、F教諭らによる全身の殴打を訴えたので、父は少年の言い分を聞いた上で対処するとして少年を同伴して退出し、少年の顔面の傷について診断を受けさせた上、同人を伴つて○○通信社に赴き、学校側による生徒への傷害事件があつた旨通報したこと、学校側は、これまでの児童相談所や青森家庭裁判所等少年に対する保護関係機関による保護の経過に照らし、もはや少年の問題は学校教育の限界を超えるものとして、少年の行為につき○○警察署に通報したものであることが認められ、5月9日付の○○日報、○○東北等の新聞報道は、偏つた情報に依拠したふしのある内容となつているものの如くであり、これら報道記事の内容は事実と違うとする生徒が少なくないことも優に認められるところであつて、以上の各事実を総合すれば、少年の身勝手な言動を注意し、これを改めさせようとするF教諭、G教頭らに対する、原決定6判示のとおりの、少年の暴行による各傷害の事実は明白であり、学校側が非教育的な体罰が行われていることを隠蔽するために、殊更に「少年の傷害事件」を作出したものである等とは到底認められない。

証人U子は原審審判における供述及び司法警察員に対する供述調書において、いずれも少年が本件当時、西側中央廊下をF先生に引つ張つて行かれるのは見ているが当時殴り合い等なかつた旨を述べるが、同証人は、少年が教室を出るのと前後して3年職員室斜め前の便所に行き、約1分位後に便所前廊下に出たところ、西側中央廊下のシヤツター前付近に居る少年とF教諭を目撃し少年がFに肘をつかまえられて押しつけられていたとも述べるところであつて、前示事実に照らすと同証人は少年のFに対する暴行がすでに終つた場面の状態を述べている可能性が強く、同女の右証言により直ちに前示認定を左右すべきものでもない。また、少年の暴行を否定し教諭らによる少年に対する暴行の事実を述べる証人T子の原審審判における供述は、前記同級生らの供述によつて認められるような、同女の本件暴行を目撃した直後の身振り手振りを交えての説明や、その後の昭和63年5月20日警察署からの本件事情聴取の依頼に対し、既に少年宅において○○通信社記者、教育委員会関係者数名、少年の父らから事件の詳細を2度に亘り尋ねられ、記憶が混乱してしまい、もう何も話したくない旨述べてこれを断つていながら、その後の同年7月26日の原審審判において、証人として前記供述をしている事実に照らし、なんらかの思惑が介在する疑いが濃く、信用し難いものがある。また、原決定6の(2)の非行事実に関するVの陳述書は、少年側が原審で取調べを求めていた証人Wが、その保護者を介し前同日の審判期日に出頭することを断る旨の上申書を提出し、これを知つた少年の父がWを説得すべく同人を探していたところに右Vが出会い、少年の父から付添人弁護士事務所での事情聴取に応ずるよう勧められ、渋々これに応じた結果、昭和63年9月3日に録取された書面であつて、これが作成される経緯についても、少年の保護者の一方的な思い込みとも受け取れる認識を背景とした働き掛けが介在しているふしがあるばかりでなく、また、その内容も、時間的、空間的に断片的、皮相的な外形を述べているのに止どまり、事件当日の×年×組の教室内での事の起こりから、F教諭及び少年が校長室に入るまでの経緯、特に少年が校長室出入り口の壁に掛かつていた写真額を外してF教諭に殴りかかつていることを含めての経緯、校長室に入つて直後の少年のF教諭に対する暴行、これを制止し椅子に座らせようとするG教頭の脛や顔面への暴行、S教諭の制止にもかかわらず少年の粗暴な行動が収まらないところからの同教諭による保護者への連絡、亀裂が入るほどにテーブルを蹴飛ばす、硝子製の灰皿を振り回す、ストーブの上の水入りボウルを校長に投げ付けるなどの少年の乱暴極まる行為の連続、これに対するG教頭、S、R、Fの各教諭らによる懸命な制止など、知る由もないとはいえ、事の実質を看過しているものとして信用し難いものがあり、未だ原審の事実認定を左右するに足らない。

また、右各事実について、頭書所論と同旨内容の少年の原審審判における各供述及び捜査官に対する各供述調書も、前示措信すべき各証拠に照らし信用の限りではない。

以上のとおりであつて、関係証拠によれば、原決定判示の各事実は優にこれを肯認でき、原決定に所論のような事実誤認はない。論旨は理由がない。

抗告趣意第二処分の不当について

所論は、要するに、本件について少年を初等少年院に送致した原決定の処分は著るしく不当というのである。

しかし、記録を精査して原決定の処分の当否を検討すると、少年は、原決定判示のとおり、昭和61年3月以降児童相談所において継続的な指導を受けるところとなつたものであるところ、原動機付自転車の無免許運転、校則違反、授業妨害、学校教師への反発を繰り返し(原決定判示7)、ぐ犯状態を続ける間に、共犯者らと原動機付自転車を窃取し(同1、2)、無免許運転をし(同3、5)、X所有の普通乗用自動車を損壊し(同4)、F・Gに各傷害を負わせた(同6の(1)、(2))という事案であり、同6は、いずれも青森家庭裁判所の昭和63年2月17日決定の調査官による試験観察期間中になされた非行である。その非行の態様が示す少年の数多い問題性、特にその背景としての生活態度、価値観、性格などの資質面や、保護環境上の問題点等について、原決定がその(処遇の理由)の欄で摘示するところは、当審においても概ねこれを相当として是認できるのみならず、少年が関係機関の指導を無視し、自己の欲求や感情の赴くまま、いとも平然と社会規範に背く行動を重ねるようになつた自分自身の問題点について気付かず、社会性の発達が遅滞し、幼児のような自己中心性が強く残存したままに立ち遅れ、未だに共感性が欠如して自己の考え、判断を絶対と信じ、それを社会規範と照らし合わせ自己洞察をすることができないなどの性格の偏りが大きく、これが幼児期からの成育過程で形成され、保護者により矯正されることなくむしろ助長されて経過して来たことや、その長い学校不適応の生活史からも窺えるように、少年の性向を適切に教化改善させるべき社会資源も見当らないこと、保護者たる父の保護態度、能力については近時若干の改善のきざしは認められるものの、少年の現状に照らし、その健全育成のための社会的資源の一つとして多くを期待することができないこと等を併せ考えると、少年に規範意識を持たせその非行性を除去するとともに社会適応性を高め、その健全育成を図るためには、その資質、環境の現状から見て、到底在宅保護の能くするところではなく、専門的施設に収容のうえ系統的な矯正教育を施すことが不可欠であり、これと同旨の判断のもとに、少年を初等少年院に送致した原決定の処分が著しく不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

よつて、少年法第33条第1項後段、少年審判規則第50条に則り主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 金末和雄 裁判官 井野場明子 千葉勝郎)

〔参考2〕再抗告申立書

再抗告の申立

青森市大字○○字○○××番地××号

(置賜学院在院中)

少年 B・O

右少年に対するぐ犯、道路交通法違反、窃盗、器物損壊、傷害保護事件について昭和63年12月5日、仙台高等裁判所第1刑事部がなした、抗告を棄却する決定は不服であるから、少年法35条により再抗告する。

昭和63年12月17日

青森市○○×丁目××番×号○○ビル

右少年付添人弁護士○○

最高裁判所 御中

申立の趣旨

1 原決定を取り消す。

2 青森家庭裁判所が昭和63年10月3日、少年になした初等少年院送致決定を取り消す。

3 本件を青森家庭裁判所に差し戻す。

との決定を求める。

申立の理由

第1 原決定(原々審決定非行事実6)は憲法に違反し、もしくは憲法の解釈に誤りがある。

少年保護事件について原決定の証拠の伝聞性について述べた立場も理解できないわけではない。しかし、伝聞法則については少年保護事件も刑事裁判と基本的には同じだと思うのである。原決定の云う「少年法所定の目的に鑑み、各証拠の内容、形式や他の証拠に現われる客観的な状況との符合など、合理性が担保される限り少年事件担当裁判官の健全な判断により事実認定の資料となし得るものと解すべきである」との判示については賛成することはできない。右判示する制限は極めて抽象的であり所詮無限定と同じである。事実、非行事実6については客観的証拠に乏しいのに(殆どが供述証拠である)伝聞証拠に頼っている。確かに刑事裁判のように厳密に伝聞性を排除する必要はないと思うが、少なくとも非行事実を争っている事件については基本的な柱となる事実そのものの確定はやはり伝聞証拠は排除されなければならず、かりにその場合資料として使用するにしても補助的にしか使用できないと考える。本件に即して云えば校長室内の出来事については相当程度の複数の教師の証拠調べが必要であると思われる。従って、原決定は憲法37条2項に違反し、かつ、その解釈を誤っていると云わざるを得ない。

第2 原審及び原々審決定のこれを取り消さなければ著しく正義に反すると認められる重大な事実の誤認原決定には重大な事実の誤認(原々審決定5、6の非行事実)があり、これを取り消さなければ著しく正義に反する。その理由は次のとおりである。

一 (原決定5の事実について)

1 原決定は少年が路上で無免許でバイクの運転をなしていた旨の認定は著しい事実の誤認である。まず、原決定の根本的な欠陥は、少年が運転していたバイクに電予ホーンが取付けられていたことを前提としているが、右前提事実を裏づける客観的な証拠がないのにAの捜査報告書と審判廷での証言のみを鵜呑みにして判示している点であるこれについての事実をきちんと確定しない限り非行事実を認定することはできない。と思うのである。すなわち、少年が所有していたバイクは審判当時から電子ホーンではなくエアホーンであると主張し抗告書にも同様の主張をしている。その害性については抗告の理由書にも記載しているとおり、電子ホーンは「ファーン」という余韻の残る音であり、また、当時、少年が所持していたバイクはエアホーンであり、これは余韻の残らない「パッパッ」というようないわゆる炸裂音である(青森家庭裁判所においてはこの検証の申立は採用されていない)。

2 従って、有力な反対証拠(証人Dの証言、証言の内容から同証人が偽証しているとは到底認められない)があるのに警察官の捜査報告書と審判廷での供述のみで本件バイクに取付けられていた警笛が電子ホーンであると確定し、それを前提に事実を認定したことは極めて不当である。他の証拠に現われてくる客観的事実と符合するというがどこが符合するのか明らかではない。

3 次に、原決定は次の点においても極めて恣意的な認定をしている。すなわち2丁表に「○○方面から○○方面に進行するバイクを発見し、これを検問しようと対向して運転したところ、同バイクが途中で○○交差点を右折し、○○団地方面に向かって○川東側土手道路を北進するのを見届け、○川西土手道路を○○橋方向に従歩で追尾し、そのバイクが○○団地方面から戻ってくるのを本件空地において待機し、やがて同団地方向から戻ってきて空地に乗り入れたバイクの運転者である少年を取り調べたという内容であり」というものである。しかしながら、Aの捜査報告書によれば、「エンジン音からバイクは近くを走り回っていると思料され、バイクのエンジン音が大きく聞こえてきたので本職は○○橋東側の市道脇空地で待機したものである」と述べているのにとどまっており、右認定はAですら明確に述べていない事実について推測的な認定をしているのである。すなわち、Aが本件バイクについて、同一のバイクであると考えているのはバイク音が大きく聞こえてきたということと、付近を走り回っているということを根拠にしているものであり、そのバイクの走行している道路の道順についても全てを認識しているものではない。しかし、原決定はあたかもAが全てを認識しているがごとく誤って認定している。すなわち、Aの想像をなぞっているにすぎない。なお、Aは原決定も認めるように○川西側土手道路を○○橋方向に向かっているのであって、いわば目撃していたバイクおよび自転車は対岸から目撃していたのであって、○川の幅員(相当の幅員がある)、その目撃していた位置等カら考えてみると、どれほど正確に目撃していたかの点については相当に疑問をさしはさむ余地がある(Aは対岸にいてそこから橋を渡り本件空地に至っているのであって、バイクの警笛を正確に聞き取れる位置にもいないことも指摘しておきたい)。

4 次に原決定は「所論は、同証人の供述中の本件空地の広さに関する部分がE撮影の写真、証人D(第二回)の原審審判における供述に相違することをもって、同証人の供述全体の信用性を論難するが、右の一時から直ちに同証人の供述全ての信用性を否定することは、あまりにも即断に失するものといわなければならない」とする。しかし、本件空地は極めて広いから、少年がどの位置に立っていたか、警察官はどの位置に立っていたか、バイクが侵入することができるような位置はどこか(本件空地の周辺には側溝がある部分もあるからどこからでも入れるというものではない)、どこからバイクが侵入したのか等について、証拠によって確定をすることもなく、きわめて漠然とした認定しかなしていない。すなわち、原決定および青森家庭裁判所の決定においても、どの地点で警察官が少年を現認し、また、少年がどの位置からバイクを侵入させてきたかについては何ら明確にしていないのであって、認定すべき根拠となる証拠も乏しいのに、本件非行事件を認定することはおかしい。Aの捜査報告書によれば、「本職は○○橋東側の市道脇空地で待機したものである」と述べている。そうすると、少年側の提出した写真添付の図面の橋が○○橋となるから、その付近に待機していたということになる。しかし、他方、Aは審問調書においては「確かに重機はありましたし、私は重機の北側にいましたので重機の陰から出てきたと思ったのではないでしょうか」とも供述しており、捜査報告書の供述とも矛盾している。しかも、本件空地は相当に広いのであるからこの矛盾を看過して事実を確定することは許されない。更に、少年がどの方向から侵入して来たかについては本件全証拠を検討しても明らかではない。

5 また、本件空地は相当に広いが外灯は○○橋付近に1つあるだけで写真でみる限りにおいて○○橋側に接する本件空地の道路には照明はなく見えにくい状況でもある。

6 夜間であり暗いから、衣服は白色でもないかぎり、黒っぽく見えるのは当然であって、原決定のこの点に対する判示もさしたる意味がない。

二 (原決定6の(1)、(2)の事実について)

1 原決定はここにおいても事実を誤認している。原決定の証拠の取捨選択の基本的な姿勢は少年側にとって不利益な事実は簡単に取り上げる一方(非行事実2についても多分に云えるところであるが)、少年側にとって有利な証拠についてはいとも簡単に偏見をもって一蹴している点である。少年保護事件について原決定の証拠の伝聞性について述べた立場も理解できないわけではない。しかし、それであればこそ反対尋問にさらされていない証拠についての取り上げ方はより相当の慎重さを要するというべきである。

2 原決定は証人U子の証言についても「U子は少年のFに対する暴行が既に終わった場面の状態を述べている可能性が強い」として既に暴行が終わっている時点から目撃しているかのように強引に位置付けている。しかし、既に抗告趣意書に述べたとおり、この間の各生徒の動向等をつぶさに検討しても、U子が特に遅れて目撃しているという証拠はないのである。また、T子の原審審判における供述についても原決定は極めて偏った見方をしており、本件審判廷においてのT子の証言の態度は極めて真摯なものであり、かつ、T子は特にFに対する反感を持っていたわけでもなく、また、少年ともその父親とも特に親しい関係にないものであって、○○通信記者、教育委員会者数名らに尋ねられたことと原審審判において虚偽の供述をする理由とは全く結びつかない。次いで、原決定は「少年の父等から事件の評細を2度にわたり尋ねられ、記憶が混乱してしまい、もう何も話したくない旨述べて、これを断っていながら、その後の同年7月26日の原審審判において、証人として前記供述をしている事実に照らし、何らかの思惑が介在する疑いが濃く、信用しがたいものである」と判示する。しかしながら、「何らかの思惑が介在する疑いが濃く」としてその証拠を排斥するにはその「思惑」を解明する必要がある。これをしないで証拠を排斥するのは極めて不当である。付添人としてもT子の言動の変化には理解に苦しむところであるが、抗告書に記載した経緯によるのかとも思われるが、定かではない。確かに、記憶が混乱してしまい、話したくないと述べている事実等も何われる。しかしながら、同人が証人として出頭したのは裁判所からの召喚状がいき、それに基づいて出頭しているものであって、一市民としての義務を果たすという点から赴いていると思われ、中学校の女子生徒が宣誓の上、「思惑」から虚偽の証言をするとは考えにくい。また、証人として出頭した者たちの共通の危惧は、自分等が家庭裁判所に出頭したことが学校に知られることをひどく恐れていたものであるが、この場合、たまたま夏季休暇の点もあって、学校に知られることなく出頭しているのであり、原決定がいう何らかの思惑というような判示の仕方は極めて妥当性を欠くものであり、このような偏見は強く非難されなければならない。

3 次に、付添人の作成にかかるVの陳述書について原決定は「時間的、空間的に断片的、皮相的な外形を述べているのにとどまり」と判示する。少年の父親にはその言動に問題があると思われる点については、付添人もすでに意見陳述書、抗告書で述べてきたところである。しかし、それだからといってそれ故にその少年の父親が第三者に対し虚偽の陳述を押しつけた趣旨の判示をすることははなはだしい独断であり、極めて短絡的な理由だと言わざるを得ない。付添人はVからの客観的な事実を聞くために、少年の父親を事情聴取後間もなくして同席させず、かつ、本人の想像とかその他の思惑を一切廃除して極力客観的な事実のみを録取していったものである。従って、当然のことながら学校の校庭から或る程度距離のある校長室内の出来事を目撃しているのだから、時間的、空間的こ、断片的にならざるを得ない。しかも、Vはその校長室内の様子を窓のすぐそばから一部始終見ていたわけでもなくその内容を詳細にあるいは連続的に述べているとすれば、かえって不自然な供述であり、真実性を担保していないことになると思う。Vの陳述書は時間的にも、空間的にも、断片的であるというのは、その見た位置、そのVの事件に対する関心の度合い、記憶喚起のためには時間が経ていたこと等によるのであって当然の成り行きである。「皮相的」とも判示する。その含蓄を理解できないが、右のような判示でVの陳述書の信用性を否定するのであれば極めて遺憾である。

4 また、各教諭の供述が大筋において一致しているからといって、信用性を付与するのは不当である。居合わせた教師が全て口裏を合わせていることは容易に想像できるし軽微な傷害についてわざわざ診断書を取り寄せるなどむしろ用意周到で不自然な事実が存在する。各証拠を総合すると少年の行動は要するに校長室内から出ようとしていたこと、またFがそれを阻んでいたこと(抗告書でも触れたがRの員面調書10丁表にはっきりと「B・O君が出ようとするたびにF先生がB・O君の前に立ちぶさがり、B・O君を出さないようにしていました」との供述記載がある)の事実が認められ、これと原決定の少年の積極的加害行為の認定(さらに云えば手に負えないと云う認定)とは相入れないし、判示には明らかな自己矛盾がある。

(なお、付添人はさらに再抗告理由の補充及び証拠を提出する予定である)

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